イギリスで学ぶサッカーMBAのブログ

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サンドニの興奮

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ベルギーから流れてフランスに辿り着きました。

大学院生の端くれとして、たまには勉強チックなことも書いてみようと思います。


パリのスタッド・ド・フランスというスタジアムに行ってきました。

ここは1998年フランスW杯決勝戦の舞台になった場所です。

日本代表との直接の接点でいうと、フランス代表を相手にここで
2度対戦していて、1度目は0-5と大敗、そして2度目は1-0と
勝利しています。どちらも日本人ファンにとっては非常に印象の強い試合です。

幸いにも、スタジアム内部をスタッフが案内してくれるスタジアムツアーに
参加することができました。いったんは1時間程度で終了したのですが、
僕だけ後からスタッフをつかまえて聞きたいことを聞いていたら、
結局合計でなんと2時間半・・・。

大量の質問をしただけではなく、時には際どい質問も

させていただいたのですが、ためらうことなく答えていただけて、

本当に素晴らしい対応をしていただけました。


今の僕にとって、スポーツ業界に関する知識欲の充足ほど
幸せに感じるものはありません。

なんてったってパリに来たら誰もが行くであろう
ルーブル美術館に行かず、真逆の方向にあるサッカースタジアムに
行ってるんですから・・・。

こういった知的興奮と充足が生まれるのは、ここがサルトルをはじめとする
数々の著名な哲学者を生み出したフランスという国だからなのでしょうか。
とにかく、せっかくなので、僕のメモをここに記載しておきます。

体裁はあまり意識していないので、多少の読みづらさはご容赦ください。


・建設費の47%を政府が、53%を国内大手の建設企業2社で負担。

 所有権は政府、(30年間分の)運営権を企業が保有。

 試合関連の収入については、所有者たる政府でなく運営者たる企業側が

    多くを得られる仕組み。さらに運営補助費も政府から企業側に出ている。

    ただ、2013年からは(政府が当初の契約を破棄して)運営補助費が大幅に削減

(もしくは打ち切り?)の予定。それに伴ってスタジアムにおける

 サービスも低下する見込み。

 

・近くに聖堂があり、それより高さのあるスタジアムの建設は認められなかった。

 しかしフランスW杯決勝戦を目的に建設されたスタジアムとして、

 8万人分の観客席と視認性の両方を確保するためには、

 聖堂を上回る高さが必要だった。

 そこで苦肉の策としてピッチを地下に位置する場所に作り、

 それに合わせて観客席の位置そのものも全体的に低く設計した。

 結果、スタジアム全体の高さを低く抑えて、求められていた要件を満たした。

 

・サッカーの試合については、原則的にフランス代表の試合に限定しており、

 特定のクラブのホームスタジアムにすることを意図していない。

 観客席が全面灰色なのはそのため。フランス国旗の青・白・赤というカラーも、

 特定のクラブ(PSG等)のカラーと重なるために使えない。

 

・クラブがホームとして利用しているスタジアムとは異なり、

 年間のサッカーの試合数が限定されている。他に陸上競技やラグビーでも

 使用されるが、それでもやはり試合収入には限界がある。

 そのため、歌手のコンサート等、他のエンターテイメントへの活用を

 積極的にしている。他のイベント会場と比較した際の大きなアドバンテージは、

 「フランスW杯における母国優勝という栄光の舞台」であるということ。

 この点は、他のどの一般的なイベント会場(コンサートホール等)とも

 比較できない分野の強みと認識している。

 

 ちなみに、これまでモータースポーツのイベントもスタジアムで実施している。

 一つはアスファルトをピッチ上に設置してレースを実施。 

 もう一つは芝生を凍らせて(!)実施したアイスラリー。

 上記の通り、サッカーの試合数が少なくて比較的スケジュールの空きがあるため、

 設営に日数(2週間程度)を要するイベントでも開催が可能という点が、

 別の強みとして挙げられる。

 

・陸上競技用トラックも併設されているが、トラックは用途に応じて取り外しが

 可能。ただし一方で、トラックをはめ込んだ時にほんのわずかではあるが

 隙間が生まれてしまうのは事実。結果、トラックの性能としては通常

 (取り外し不可のもの)と比べると劣る(=好成績が出づらい)かもしれない。

 

・選手の試合前の待機場所は、二つの点で管理を徹底している。

 一つは照明。選手がナイター照明や太陽光をまぶしく感じないよう、

 最適な光量を保っている。もう一つは室温。サッカーと比べて、

 フィジカルコンタクトの衝撃度が高いラグビーの試合の場合は、

 怪我予防のため、高めの体温を維持させるべく、

 サッカーに比べて高い室温に設定している。

 

・芝生は根付きや修復といった観点から、フランス産とイギリス産の混合種を

 使用している。また、3種類の薬品を用いて、芝生の強度や色を一定レベルに

 維持している。

・スタジアムツアーやオフィシャルショップは、

 他の世界的に知られているスタジアムに比べて小規模。

 クラブ所有のスタジアムだと、タイトル獲得の度に優勝カップ等の

 「目玉」となる展示物が増えていく。その点において、クラブとの接点を

 持っていないスタジアムでは魅力を生み出しづらい。

 それを補うべく、スタジアム管理に関する案内に重きを置いている

 (消防士の待機場所兼防火システム管理室への入室等)。 

 

以上。スタジアム運営については、僕も日本で勉強・調査を
していたことがあるのですが、関係者にここまで突っ込んだ話しを聞けたのは
はじめてで、書籍や体験で得ていた知識を実務上の運用と組み合わせて
理解するのに、絶好の機会となりました。

これをお読みいただいている多くの方にとっても何らかの参考になればと思います。